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2024/03/29 08:50 |
第93回 続・独断と偏見で10本を選ぶ 日本映画オールタイムベストテン(山中貞雄他)文学に関するコラム・たまたま本の話
PDF版はこちらから

前回の外国映画に続き、今回は日本映画オールタイムベストテンを選んでみたので、ご笑覧を。(順不同)
①人 情紙風船
監督:山中貞雄 製作:1937年、P.C.L
「紙風船が遺作とはチト、サビシイ」――この山中貞雄の遺言を受けて、映画ファンの我々もチト、サビシイ。彼が28歳で戦病死しなければ、戦中・戦後の日本映画史は大きく変わっていただろう。戦時下の鬱屈した空気を、時代劇に託して描いたこの遺作は、日本映画史上の名作として今も輝いている。
② たそがれ酒場
監督:内田吐夢 製作:1955年、新東宝
「飢餓海峡」という名作がどうも肌に合わない。となると内田吐夢は日本映画オールタイムベストから漏れるか、という心配は無用。日本における「グランド・ホテル形式」の最高の成果がここにある。大衆酒場の開店から閉店までの半日に時間と場所を限定して、そこに集う人間模様を描いた異色作。極めて演劇的な構成で、かつて内田自身が旅芸人一座でドサ回りをしていたことを想起させる。
③ 砂の女
監督:勅使河原宏 製作:1964年、東宝
④ 他人の顔
監督:勅使河原宏 製作:1966年、東京映画・勅使河原プロ
勅使河原宏の2本、というよりも勅使河原=安部公房のコンビが最高の成果を見せた2本。安部の2作――昆虫採集のために砂丘を訪れた教師が砂の穴に囚われる前者も、事故によって顔の皮膚を失ってしまった男が人工マスクで妻を誘惑する後者も、1960年代前衛文学の最先端を走っていた。名作の映画化は往々にして期待外れに終わるが、この2本は勅使河原の映像と安部の原作が化学反応を起こして稀有の名作となっている。
⑤ 椿三十郎
監督:黒澤明 製作:1962年、東宝
「用心棒」という名作のパート2として作られながら、独立した別物になってしまった作品。前作の三十郎の神秘性が消えてしまったという批判もあるが、これもまた紛れもなく黒澤映画なのだ。ある藩のクーデターに行きずりの素浪人が絡んで、というテーマ性と娯楽性がふんだんに散りばめられている。ラスト、三船敏郎と仲代達矢の達人同士の一騎打ちは、何度見ても度肝を抜かれる。
⑥ 彼奴(きゃつ)を逃すな
監督:鈴木英夫 製作:1956年、東宝
映画の大きな要素にスリルとサスペンスがあるのなら、この監督こそ生前もっと評価されてしかるべきだった。さすがに最近では再評価されているが、鈴木英夫の多くの傑作群の中から「彼奴(きゃつ)を逃すな」を挙げる。殺人を目撃した夫婦が、警察に事情を話すが、やがて犯人がそれを知って報復に現れて……。プログラムピクチャーのツボを押さえたサスペンスの盛り上げ方には、映画作りの基本が詰まっている。
⑦ 女の中にいる他人
監督:成瀨巳喜男 製作:1966年、東宝
「浮雲」以外の成瀨巳喜男映画を選ぶ、と自分に無理やり縛りをかけると、「めし」「稲妻」などの名作も「ミニ浮雲」に見えてくるから不思議だ。そこで成瀨にはサスペンス映画の作り手の一面があることに思い至った。エドワード・アタイヤの「細い線」は江戸川乱歩が絶賛した異色の心理サスペンス小説だが、本作はそれを原作にしながら、成瀨らしい女性映画に換骨奪胎されている。主人公が小林桂樹から新珠三千代に突如として転換する一瞬を見逃すな。
⑧ 秋刀魚の味
監督:小津安二郎 製作:1962年、松竹
「東京物語」を選ぶ誘惑を捨ててみると、小津安二郎の本質が見えてくる。失敗作とされた「風の中の牝鶏」などのほうが、むしろ小津らしいテーマの映画だった。ここで遺作を挙げたのは、「笠くん、君の演技よりも僕の構図のほうが大事なんだ」という伝説的な語録の持ち主が、最後の最後で、俳優の演技というものに理解を示したからだ。笠智衆を見よ、東野英治郎を見よ、加東大介を見よ。
⑨ 儀式
監督:大島渚 製作:1971年、ATG・創造社
大島渚の唯一のキネマ旬報日本映画ベストワン作品。それにしては代表作として名前が挙がらない不遇さを持つ。「愛のコリーダ」や「戦場のメリークリスマス」などの後期作品、「白昼の通り魔」や「日本の夜と霧」などの初期作品の評価に及ばないのは、センセーショナルさに欠けるからか。ニュースフィルムを一切挟まず、ある旧家の家父長制や冠婚葬祭をじっくりと描くことで、大島は戦後民主主義の欺瞞を抉り出している。
⑩ 仁義の墓場
監督:深作欣二製 作:1975年、東映
やくざ映画を語るときに問われるのは、「高倉健の任侠路線か、菅原文太の実録路線か」という二者択一である。しかし1973年の「仁義なき戦い」に遅れること2年、とんでもないやくざ映画が現れた。健さんでもなく文太でもなく、主演は渡哲也。東映初主演の本作で、仁義や盃の伝統に引導を渡す破天荒なやくざ、石川力夫の短い一生を演じている。辞世の句「大笑い 三十年の馬鹿騒ぎ」は、30年のやくざ映画の歴史そのものをあざ笑っているかのようだ。(こや)

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2018/07/25 13:23 |
コラム「たまたま本の話」

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