忍者ブログ
[PR]
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。


2025/02/03 13:15 |
第4回 ヘンリイ・スレッサーの短編技法(ヘンリイ・スレッサー)

第4回 ヘンリイ・スレッサーの短編技法

(ヘンリイ・スレッサー)

星新一と阿刀田高といえば、当代きっての短編作家である。この2人がそろってロアルド・ダールをそれほど買っていないのは面白い。
ダールの名作短編集「飛行士たちの話」(1981年7月、ハヤカワ・ミステリ文庫刊)の解説で阿刀田は、あるパーティーの席上で星とダール談義をしたときのことを書いている。「評価の厳しさに差はあるけれど、“ダールにも結構愚作がある”という点で一致したのはすこぶる愉快であった」

注目すべきはこの後の文章で、阿刀田は別の作家の名を挙げて褒め上げている。「ダールと味わいのよく似た、もう一人の異色短篇作家にヘンリイ・スレッサーがいるけれど、打率が高いという点で言えば、スレッサーのほうがダールより断然上なのではあるまいか。つまりスレッサーの作品は読んで失望させられることが少ない。まず7、8割がたは満足できる出来ばえだ」。ダールに比べてここまで阿刀田に評価されるスレッサーとは、どんな作家なのか。

ヘンリイ・スレッサーは1927年、ニューヨーク市ブルックリンに生まれた。本名はヘンリイ・シュロッサー。どうやら家系はロシア、ドイツ系のユダヤ移民だったらしい。高校を卒業後、すぐに広告代理店に就職してコピーライターとなった。1950年代中盤から雑誌に短篇小説を書き始めるとともに、30歳代の半ばには自ら広告会社を興したというから、ビジネスマンとしても極めて有能だったに違いない。つまりスレッサーは専業作家でなく、二足のわらじを生涯にわたって履き続けた才人だった。

スレッサーといえば、映画監督のアルフレッド・ヒッチコックを抜きにしては語れない。「アルフレッド・ヒッチコック・マガジン」が創刊されるや、常連執筆者として迎え入れられ、同誌の看板作家となった。そして本国アメリカで1955年10月から放映が開始されたテレビドラマシリーズ「ヒッチコック劇場」「ヒッチコック・サスペンス」では、原作者として、あるいは脚本家として、その作品が取り上げられること40回以上に及んだ。つまりあの一話完結のドラマシリーズ全体の11回から12回に1回はスレッサーのかかわった作品だったわけである。

ヒッチコックが選んだスレッサーの短編集が2冊、翻訳されている。「うまい犯罪、しゃれた殺人」と「ママに捧げる犯罪」。このうち「ヒッチコックのお気に入り」と副題の付いた前者には、選りすぐりの短編17編が収められている(2004年8月、ハヤカワ・ミステリ文庫刊)。この短編集から、スレッサーという作家の魅力を考えてみた(以下、ストーリーに触れている箇所があるので未読の方はご注意を)。

一読して明らかなのは、収められているのがファンタジー系でなく、サスペンス系あるいはミステリ系のアイデアストーリーばかりなのに、最後までオチを読み手に悟らせない巧さである。

例えば「金は天下の回りもの(A Fist Full of Money)」は、同僚とのポーカーで給料をすっかり巻き上げられた主人公が、妻に弁解するために追いはぎにあったと偽装するが、なんと本当に金を盗んだという不良青年が逮捕されて、という話。
金は返ってきたが、その金は貧しい不良青年の生活費に当てられるべきものだったかもしれない。主人公は苦悩するが、実はその不良青年の持っていた金は、ポーカーで主人公から金を巻き上げた同僚から奪ったものだった……というオチがついている。
金は天下の回りものというタイトルに大きなヒントが隠されているのだが、最後まで結末が読めない。

「ふたつの顔を持つ男(The Man with Two Faces)」は、引ったくりに遭った老女が、犯人特定のために警察の手配写真アルバムを見せられるが、犯人でなく自分の娘婿の顔写真がその中にあるのを偶然に見てしまう。
老女は娘婿の素性についてよく知らない。自分の娘婿が犯罪者なのかどうか、娘にも相談できずに老女は悩むが、実は娘婿だけでなく娘も犯罪者の一員だった。
「引ったくり犯人が女だったら、あなたは自分の娘の顔を偶然、手配写真の中に見ていたところです」と老女に告げた警部の最後の一言が強く印象に残る。

スレッサーの持ってくる予想外のオチは、確かに阿刀田が言うように7、8割は満足できる切れ味を持っている。それはスレッサーの本業であるコピーライティングの技法が短編小説にも応用されているからのように思われる。
「金は天下の回りもの」で読み手は、追いはぎにあった偽装が本当になる不思議さに目を奪われ、それがなぜかという謎の解明よりも、不良少年の金を奪うことの良心の呵責に主人公と共に悩んでしまう。
「ふたつの顔を持つ男」でも、娘婿が犯罪者ではないかという老女の不安に読み手も巻き込まれ、まさか娘もその片割れだったという結末まで想像が至らない。

「ヘッドライン(見出し)でその広告テーマをすべて述べずに、ボディーコピー(商品説明)に誘い込み、そこで説得する」―これはコピー作法の古典的技法である。スレッサーの短編小説のタイトルがヘッドライン、ストーリー展開がボディーコピーだとすれば、彼の短編はまさにその流れでテーマを展開しながら、最後のオチで一気にひっくり返し、強い印象を読み手に与えることに見事に成功している。(こや) 


にほんブログ村 本ブログ 海外文学へ
にほんブログ村
ブログランキングに参加しています。
クリックしてご協力いただければ幸いです。

海外文学作品についてのコラム「たまたま本の話」を掲載しています。
「たまたま本の話」は「miniたま」に毎号掲載しているコラムです。
「miniたま」は、インターネット古書店「ほんのたまご」とお客様を結ぶ架け橋として、
ご注文書籍とともにお送りしているミニコミ紙です。

「miniたま」のバックナンバーPDF版はこちらからどうぞ

PR

2011/01/26 18:16 |
コラム「たまたま本の話」
第3回 ジョルジュ・ランジュランはスパイだった(ジョルジュ・ランジュラン)

第3回 ジョルジュ・ランジュランはスパイだった

(ジョルジュ・ランジュラン)

フランスで1950年代から70年代初頭にかけて活躍した作家に、ジョルジュ・ランジュラン(1908~1972)という人がいる。イアン・フレミングの007シリーズが世界的なブームを巻き起こした60年代に、「NATO情報部員シリーズ」と呼ばれる国際スパイ小説を数多く書き、好評を博した。我が国でも同シリーズの1作「魚雷をつぶせ」が早川書房から翻訳出版されている(原著64年、邦訳74年刊、現在は絶版)。

しかしランジュランの代表作といえば、何と言っても短編「蠅」だろう。53年に創刊された「ファンタジイ&サイエンス・フィクション」誌のフランス語版創刊号に掲載された。
巨大なスチームハンマーで頭と右腕を完全につぶされた科学者の死体が発見された。科学者は画期的な発明に取り組んでいたらしい。やがてその妻の手記が明らかにした想像を絶する真相とは……。発表とともに批評家から絶賛され、“20世紀に書かれた最も戦慄すべき物語”と評価されたこの短編は、アメリカ本国版「プレイボーイ」の編集長レイ・ラッセルの目に留まり、同誌の57年6月号に転載された。58年にはカート・ニューマン監督によって「蠅男の恐怖」のタイトルで映画化されている。
61年には「SFマガジン」3月号に訳出され、日本の読者にもお目見えした。この掲載が「当時企画が進行中だった<異色作家短篇集>のラインナップに、ジョルジュ・ランジュランの名が加わるきっかけとなった」と、評論家の三橋曉は指摘している
(新装版「異色作家短篇集5 蠅(はえ) ジョルジュ・ランジュラン」2006年1月、早川書房刊、解説より)。
ところが、それからがいけない。65年10月にオリジナル版「異色作家短篇集」の1冊として10編を収めた「蠅」が刊行された後、翻訳されたランジュラン作品は前出の「魚雷をつぶせ」のみ。あとは短編「殺人者」が「ミステリマガジン」86年10月号に掲載され、「蠅」がハヤカワ文庫に収録された(86年12月刊、現在は絶版)に留まる。ランジュランはすっかり忘れられた作家となってしまった。

ランジュランについて調べると、この作家が主としてフランスで著作活動を行っていても、実は英国人の両親の間に生まれた、れっきとしたイギリス人であることが分かる。国籍もイギリスで、驚くべきことに、第二次世界大戦中にはフランス語の堪能さを買われ、スパイ活動にも従事していた。「第二次大戦下ではイギリスのMI5に籍をおき、“ポマドウ”のコードネームでフランスに拘わるさまざまな情報活動に身を置いたという」
(前出の三橋曉の解説より)。

MI5とはイギリス情報局保安部のこと。ウィキペディアによれば「イギリスの国内治安維持に責任を有する情報機関」で、かつては軍情報部第5課と呼ばれた。サマセット・モームやグレアム・グリーンが所属していたと最近、明らかにされたMI6(かつての軍情報部第6課、現イギリス情報局秘密情報部)ほど有名ではないが、現在も国際テロ対策などの活動で知られている。

ランジュラン自身は戦時中の体験についてこう書いている。「私の仕事は前線保安警察という名の部隊を掩護するというものだった」「ダンケルク会線以後も、私は、フランス語の能力と、フランスにかんする知識とを買われて、そのまま使命をつづけた」「戦争終結後もずっと軍服すがたで、私は有名な情報局のフランス部門に配された」
(オリジナル版「蠅」、稲葉明雄の解説より)。
なにぶんスパイ活動に関することだから、本人も明言していないが、この情報局というのがおそらくはMI5のことだろう。

その体験が後年、「NATO情報部員シリーズ」の執筆に大いに役立ったわけだが、このたび異色作家短篇集の「蠅」を読み返してみて、ふと気づいたことがある。ほかならぬ非日常かつ超自然の物語を集めたとされるこの本にも、自らのスパイ活動にかかわる要素が色濃くにじみ出ていることだ(以下、ストーリーに触れる箇所があるので未読の方はご注意を)。
「彼方のどこにもいない女」は、テレビのブラウン管に現れた見知らぬ女性と主人公の不思議な触れ合いを描いている。女性は「長崎で原子爆弾が爆発したとき、ちょうどその中心にいました。分子と原子が崩壊、反物質化してテレビのブラウン管にのみ姿を現すのです」と語り、主人公とその関係者に進行中の核実験の中止を訴えるが、最後は中型爆弾の爆発で街は壊滅する。
「考えるロボット」は、チェスをするロボットとそれを操る伯爵をめぐる登場人物たちの冒険譚。チェスロボットはついにとらえられなかったが、残された犬ロボットをとらえて分解すると、中から犬の脳と声帯が現れた。

ランジュランはイギリス情報局保安部で働いていたときに、あるいはこれらの作品の発想の元となる情報を入手していたのではないか。反物質化して電波で送信される人間。生物の脳と身体部品で作られたロボット。21世紀の現在になっても荒唐無稽な、こうした科学技術の具体化に、第二次世界大戦当時の連合国や相手国がすでに取り組んでいた可能性がないとは言い切れない。そもそも代表作の「蠅」が、分解と合成を瞬時に行う物質移動の話であり、もしもこんなことが実現すれば諜報技術は飛躍的な発展をとげるに違いない。

いわゆる奇妙な味の作品を集めた「異色作家短篇集」の中でもとびきり異色な作家がランジュランだ。だからロアルド・ダールやレイ・ブラッドベリのようにポピュラーな人気を得られないのかもしれない。(こや)

にほんブログ村 本ブログ 海外文学へ
にほんブログ村
ブログランキングに参加しています。
クリックしてご協力いただければ幸いです。

海外文学作品についてのコラム「たまたま本の話」を掲載しています。
「たまたま本の話」は「miniたま」に毎号掲載しているコラムです。
「miniたま」は、インターネット古書店「ほんのたまご」とお客様を結ぶ架け橋として、
ご注文書籍とともにお送りしているミニコミ紙です。

「miniたま」のバックナンバーPDF版はこちらからどうぞ


2011/01/26 18:12 |
コラム「たまたま本の話」
第2回 「思考機械」とジャック・フットレル(ジャック・ヒース・フットレル)
第2回 「思考機械」とジャック・フットレル
(ジャック・ヒース・フットレル)

オーガスタス・S・F・X・ヴァン・ドゥーゼンは、哲学博士(PH.D.)、法学博士(LL.D.)、王立学会会員(F.R.S.)、医学博士(M.D.)、歯科博士(M.D.S.)であり、アメリカはボストン地区の某大学教授。名前と肩書でアルファベットのほとんどの文字を使ってしまうという驚くべき人物だが、この人物のことをわれわれは名前で呼ばず、「思考機械(The Thinking Machine)」というニックネームで呼んでいる。

もちろんこれは実在の人物でなく、アメリカの作家ジャック・ヒース・フットレルが小説の中で作り上げた天才的探偵である。

ヴァン・ドゥーゼン教授が思考機械の異名を得た経緯がふるっている。「最初に命名したのは新聞社で、チェスの全国大会が開かれたときであった」「彼はアメリカ選手権保持者からわずか一日の指導を受けただけの知識で、当時チェスの世界選手権を握るロシア人チャイコフスキイと勝負を闘わした。8手目で、チャイコフスキイは余裕の笑みをひっこめ、14手目を打ち終えると、教授は『15手目で王手』と言った。世界チャンピオンは『なんと!』と叫んでからこうつけ加えた。『あんたは人間じゃない。頭脳そのものだ。いや、機械といったほうが的確だろう――まさに思考機械だ!』――かくしてヴァン・ドゥーゼン教授は《思考機械》と呼ばれるようになった」
(ジャック・フットレル「思考機械の事件簿」Ⅰ、1977年7月、創元推理文庫刊、戸川安宣の解説より)

思考機械シリーズは都合45編(うち長編は1編)書かれたと言われているが、正確には分からない。新聞紙上に発表されたまま単行本未収録の作品も多いからだ。
代表作は言うまでもなく「十三号独房の問題」。思考機械が脱出実験のために入った堅牢な独房からいかにして脱出するかを描いたこの作品は、世界短編推理小説史上屈指の傑作とされる。エラリー・クイーンの「黄金の十二」をはじめいくつものアンソロジーに収録され、日本でも江戸川乱歩編の「世界短編傑作集1」(1960年7月、創元推理文庫刊)などで現在も読み継がれている。

同作は1905年、ボストン・アメリカン紙に発表されたが、こんな面白い試みで人々の目を引いた。「同年10月30日から6回にわたって連載される小説(「十三号独房の問題」のこと)を読んで、その挑戦に見事な解答を出した者には、総額100ドルの賞金を進呈する。解決編は11月5日号の日曜版に載るので、これぞという名答を寄せられたい」。この試みには多くの解答が寄せられ、第1席として50ドルを得た読者もいた。思考機械に挑戦して見事に賞金を獲得した読者も、また思考機械なみの頭脳を持っていたのかもしれない。

 作者ジャック・フットレルは1875年4月9日、アメリカのジョージア州生まれ。日本で言えば明治8年に当たる。父親はフランス系のユグノー教徒だった。ヴァージニア州リッチモンドで新聞の仕事に従事し、短期間ながら劇場の支配人も務めた。その後、ボストンに引っ越し、ボストン・アメリカン紙に入社する。ということでお分かりのように、「十三号独房の問題」で思考機械をデビューさせたとき、彼はその発表紙の編集スタッフの一員だった。
日本の新聞でも明治のころは、記者自身が記事や論文、創作を書く場を得るために新聞を創刊する、作家が新聞社に入社するなどのケースが多く見られた。岸田吟香、柳河春三、成島柳北、福地桜痴ら、花形記者にして経営者の新聞人はそうして生まれたし、夏目漱石はやがて朝日新聞に入社して小説の代表作を矢継ぎ早に書く。
アメリカでもどうやら事情は同じだったようである。ちなみに同じくボストン・アメリカン紙出身の推理作家に、名探偵チャーリー・チャンの生みの親E・D・ビガーズがいる、と前出の戸川安宣も指摘している。

新聞人にして作家のジャック・フットレルは、思考機械ものだけでなく多くの推理小説をはじめ、歴史小説、ウェスタン、社会小説、恋愛小説、スポーツ小説、政治小説などを発表した。その大衆小説の名手としての名声は、アメリカだけでなくイギリスやヨーロッパ諸国にも響くようになり、多くの作品が海を越えて出版されたという。
そんな世界的な人気作家も、40歳を迎える前に鬼籍に入ってしまう。死去したのは1912年4月14日か15日。日付でピンと来た方が多いかもしれない。ジャック・フットレルは夫人とともにあのタイタニック号に乗っていたのだ。遭難事故に遭ったとき、彼は妻を救命艇に押しやり、自らは船に留まって海底に没したという。その最期もまた、波乱万丈の大衆小説で人気を博した作家にふさわしかった。(こや)

にほんブログ村 本ブログ 海外文学へ
にほんブログ村
ブログランキングに参加しています。
クリックしてご協力いただければ幸いです。

海外文学作品についてのコラム「たまたま本の話」を掲載しています。
「たまたま本の話」は「miniたま」に毎号掲載しているコラムです。
「miniたま」は、インターネット古書店「ほんのたまご」とお客様を結ぶ架け橋として、
ご注文書籍とともにお送りしているミニコミ紙です。

「miniたま」のバックナンバーPDF版はこちらからどうぞ


2011/01/26 18:07 |
コラム「たまたま本の話」
第1回 3つの「異色作家短篇集」(ロアルド・ダールほか)

第1回3つの「異色作家短篇集」

(ロアルド・ダールほか)

「異色作家短篇集」は、1960年から刊行された早川書房の海外短編小説集の叢書である。
内容はミステリ、SF、ホラー、ファンタジー、ユーモアなど多岐にわたっている。人間の目をクローズアップした装丁の、ちょっと小型の箱がおしゃれな、いかにも翻訳文学の専門出版社らしい企画だった。
オリジナル版全18巻のラインナップは以下の通り。

01『キス・キス』ロアルド・ダール
02『特別料理』スタンリイ・エリン
03『レベル3』ジャック・フィニイ
04『夜の旅、その他の旅』チャールズ・ボーモント
05『メランコリイの妙薬』レイ・ブラッドベリ
06『炎のなかの絵』ジョン・コリア
07『さあ、気ちがいになりなさい』フレドリック・ブラウン
08『血は冷たく流れる』ロバート・ブロック
09『虹をつかむ男』ジェイムズ・サーバー
10『13のショック』リチャード・マシスン
11『無限がいっぱい』ロバート・シェクリイ
12『壁抜け男』マルセル・エイメ
13『一角獣・多角獣』シオドア・スタージョン
14『破局』デュ・モーリア
15『嘲笑う男』レイ・ラッセル
16『蝿』ジョルジュ・ランジュラン
17『くじ』シャーリィ・ジャクスン
18『壜づめの女房』 ロアルド・ダール他

これらが品切れとなったため、早川書房では1974年に改訂版を出した。下記の12巻である。今回は箱なし、通常の単行本サイズ。

01『キス・キス』ロアルド・ダール
02『特別料理』スタンリイ・エリン
03『レベル3』ジャック・フィニイ
04『夜の旅、その他の旅』チャールズ・ボーモント
05『メランコリイの妙薬』レイ・ブラッドベリ
06『炎のなかの絵』ジョン・コリア
07『血は冷たく流れる』ロバート・ブロック
08『虹をつかむ男』ジェイムズ・サーバー
09『13のショック』リチャード・マシスン
10『無限がいっぱい』ロバート・シェクリイ
11『壁抜け男』マルセル・エイメ
12『くじ』シャーリィ・ジャクスン

オリジナルの18巻がなぜ12巻に留まったのか。期待したほど売れ行きがよくなかったため、再刊企画が途中で頓挫したとも考えられるが、7巻から12巻の順番がオリジナル版と異なっているのも気になる。外されたのは『さあ、気ちがいになりなさい』フレドリック・ブラウン、『一角獣・多角獣』シオドア・スタージョン、『破局』デュ・モーリア、『嘲笑う男』レイ・ラッセル、『蝿』ジョルジュ・ランジュラン、『壜づめの女房』ロアルド・ダール他の6巻。
ブラウンの巻の題名が差別用語に当たる、といった配慮から再刊を見送ったのだろうか、
と勘繰りたくもなる。

ともあれ、この再刊の有無によってオリジナル版のスタージョンやダール他のアンソロジーの巻は古書価がさらに高まったことは事実である。
2005年になって、今度は新装版として同シリーズが復刊された。1974年の改訂版で外れた『さあ、気ちがいになりなさい』や『一角獣・多角獣』、『蝿』が早めの巻に登場するのは、早川書房の編集担当者による罪滅ぼし?だろうか。以下全20巻がそのラインナップ。

01『キス・キス』ロアルド・ダール
02『さあ、気ちがいになりなさい』フレドリック・ブラウン
03『一角獣・多角獣』シオドア・スタージョン
04『13のショック』リチャード・マシスン
05『蝿』ジョルジュ・ランジュラン
06『くじ』シャーリィ・ジャクスン
07『炎のなかの絵』ジョン・コリア
08『血は冷たく流れる』ロバート・ブロック
09『無限がいっぱい』ロバート・シェクリイ
10『破局』ダフネ・デュ・モーリア
11『特別料理』スタンリイ・エリン
12『夜の旅、その他の旅』チャールズ・ボーモント
13『レベル3』ジャック・フィニイ
14『虹をつかむ男』ジェイムズ・サーバー
15『メランコリイの妙薬』レイ・ブラッドベリ
16『嘲笑う男』レイ・ラッセル
17『壁抜け男』マルセル・エイメ
18『狼の一族 アンソロジー/アメリカ篇』
19『棄ててきた女 アンソロジー/イギリス篇』
20『エソルド座の怪人 アンソロジー/世界篇』

と並べてみれば分かるように、結局オリジナル版のアンソロジー『壜づめの女房』は復刊されなかった。その代わりに3冊の新選アンソロジーが18、19、20巻を占めている。

1960年当時はだれも知らず、現在ようやく知られるようになったラテンアメリカ作家ギリェルモ・カブレラ=インファンテや、ようやく全体像が明らかになりつつある古典作家ヒュー・ウォルポールなど、今回新たに加わった「異色作家たち」の短篇がたっぷり3巻分もアンソロジーで読めるようになったのはうれしい。
ただし『壜づめの女房』の復刊を望む声が多いのも、これまた事実だ。(こや)

にほんブログ村 本ブログ 海外文学へ
にほんブログ村
ブログランキングに参加しています。
クリックしてご協力いただければ幸いです。

海外文学作品についてのコラム「たまたま本の話」を掲載しています。
「たまたま本の話」は「miniたま」に毎号掲載しているコラムです。
「miniたま」は、インターネット古書店「ほんのたまご」とお客様を結ぶ架け橋として、
ご注文書籍とともにお送りしているミニコミ紙です。

「miniたま」のバックナンバーPDF版はこちらからどうぞ


2011/01/26 17:23 |
コラム「たまたま本の話」

<<前のページ | HOME |
忍者ブログ[PR]