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2024/05/19 14:20 |
第107回 続・独断と偏見で10本を選ぶ(1960年代日本映画ベストテン) 文学に関するコラム・たまたま本の話
PDF版はこちらから

黒澤明、小津安二郎、成瀨巳喜男が生涯の代表作を撮ったのは1950年代である。日本映画の1960年代を考えるとき、松竹ヌーヴェルヴァーグや今村昌平ら、新進映画作家たちの台頭は欠かせない。今回は1960年代日本映画ベストテンを選んでみた。対象は1960~1969年で順不同。ご笑覧ください。(こや)

① 黒い画集 あるサラリーマンの証言
監督:堀川弘通 製作:1960年、東宝

松本清張の短編小説「証言」の映画化。黒澤明の助監督を務めていた堀川弘通の出世作で、1960年キネマ旬報ベストテン第2位となった。原作の松本清張が称賛した。企業に勤める課長が愛人の女と西大久保を歩いていたとき、知人にバッタリ出くわす。やがてその知人が向島の殺人事件の容疑者として逮捕されるが、課長は不倫が会社や家族にばれるのを恐れて知人のアリバイを証言できない……。
② 私は二歳
監督:市川崑 製作:1962年、大映

松田道雄の育児書「私は二歳」「私は赤ちゃん」を和田夏十が脚色し、市川崑が監督した。都営団地のサラリーマン夫婦は、生まれたばかりの僕(太郎)の成長に一喜一憂、子育てをめぐって嫁姑問題も勃発。僕は0歳から2歳になる。子育てを通じて生命の神秘や生きることを描いた映画。赤ん坊の視点で右往左往する両親や大人たちを描いた点に新味がある。同年のキネマ旬報ベストテン日本映画第1位。
③ あけてくれ!(テレビ映画「ウルトラQ」シリーズ第28話)
監督:円谷一 製作:1967年、TBS

1966年に「ウルトラ」シリーズ第1弾として27話が連続放映された「ウルトラQ」には、内容が難解で子供向けではないとして、放映が見送られた1編があった。「あけてくれ!」で、翌年の再放送時に初放映され、陽の目を見た。会社員の沢村正吉が迷い込みかけた世界は、時間と空間を超越した異次元に存在していた。空を飛ぶ列車に乗った沢村は、この別世界へ到達できるはずであったが……。
④ 情炎
監督:向井寛 製作:1966年、日本シネマ

かつて日本シネマという映画会社があった。1963年にスタートし、ピンク映画を何本も製作した。本木荘二郎監督の「女のはらわた」を始めとして、小林悟、若松孝二、山本晋也、向井寛らを監督に起用した。「情炎」はその向井寛の初期作品。日本初のピンク映画「肉体の市場」に主演して「ピンク女優第1号」と呼ばれた女優、香取環の名演が光る。吉田喜重の同名作品よりも、こちらを高く評価したい。
⑤ 青春残酷物語
監督:大島渚 製作:1960年、松竹

「松竹ヌーヴェルヴァーグ」という呼称が生まれたとされる記念碑的作品。ラディカルな政治性を打ち出した「白昼の通り魔」「日本春歌考」「新宿泥棒日記」「少年」など中期の作品の方が一般に評価が高いが、あえて初期作品「青春残酷物語」を推す。久我美子らが演じる年長の世代と桑野みゆきらが演じる若者の世代が対比されているが、あたかも新旧映画監督の対比が象徴されているようで興味深い。
⑥ ろくでなし
監督:吉田喜重 製作:1960年、松竹

大島渚と同じ松竹ヌーヴェルヴァーグの新人、吉田喜重が自ら脚本、監督を務めた第1作。4人の大学生と1人の女性による退廃の青春ドラマ。吉田喜重は昭和8年生まれ。東大仏文科を卒業後、松竹に入社し、主として木下惠介の助監督などを務めていたが、「木下さんのような映画は作らない」という決意表明のような処女作となった。撮影は成島東一郎。ジャン=リュック・ゴダール「勝手にしやがれ」のラストシーンとの類似も微笑ましい。
⑦ 進め!ジャガーズ 敵前上陸
監督:前田陽一 製作:1968年、松竹

1960年代はグループサウンズの時代だった。人気絶頂だった「ザ・ジャガーズ」の初主演映画。つまりはアイドル映画だが、同時に日本喜劇映画オールタイムベスト級の傑作と評価された。 世界征服をたくらむ結社のボス役に内田朝雄。最初、三島由紀夫に交渉するが断られたという。てんぷくトリオの起用や、超ナルシストの警部役に三遊亭圓楽が扮するなど、見どころ満載。脚本の中原弓彦は、言うまでもなく作家の小林信彦の筆名である。
⑧ セックス・チェック 第二の性
監督:増村保造 製作:1968年、大映

原作は「オール讀物」に連載された寺内大吉の「すぷりんたあ」。パワハラ、セクハラ、モラハラという言葉がない時代の、実業団女子短距離選手とコーチの師弟を超えた愛憎を描く。名スプリンターとうたわれながら戦争でオリンピック出場の夢を断たれた男が、ある女子選手に陸上短距離100mの素質を見い出し、過酷な猛練習で好記録を出させるが、セックス・チェックで半陰陽と宣告され、オリンピック代表選手候補から外されてしまう……。
⑨ 燃えつきた地図
監督:勅使河原宏 製作:1968年、大映

「おとし穴」「砂の女」「他人の顔」に続く安部公房原作、脚本、勅使河原宏監督で、同コンビとしては最後の作品になった。突然、失踪したサラリーマンを捜索する私立探偵が、男の足取りを追ううちに奇妙な事件に巻き込まれ、やがて私立探偵自身が記憶を失って都会の迷宮に入り込んでいく……。勝プロダクションと大映が製作し、大映が配給。私立探偵を演じた主演の勝新太郎が新境地を見せた。
⑩ 人間蒸発
監督:今村昌平 製作:1967年、ATG=日活

1960年代の今村昌平の作品は傑作ぞろいだが、ここではドキュメンタリー調(現在で言うモキュメンタリー)で作られた「人間蒸発」を挙げる。ATGが最初に資金提供した作品で、キネマ旬報第2位、映画芸術第1位、日本映画評論第1位など高い評価を受けた。 俳優の露口茂がレポーターとして登場し、現実に失踪した人間の行方をその婚約者と共に追う、という設定のもとに日本全国を歩く。
(こや)


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2020/06/24 09:36 |
コラム「たまたま本の話」

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