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2024/04/29 11:26 |
第120回 かくて本屋は消えていく(山田淳夫) 文学に関するコラム・たまたま本の話
PDF版はこちらから
1996年だから、もう四半世紀も前になる。ある1冊の本がひっそりと出版された。書店で平積みになるような人気作家の本ではない。版元も大出版社ではなかったが、口コミでじわじわと売れ始めた。何よりもタイトルが良かったのかもしれない。その本――「消える本屋 出版流通に何が起きているか」(山田淳夫著、1996年7月、アルメディア刊)は、やがて出版流通を考えるときの必読書となった。
筆者の山田は、朝日新聞出版局に勤務(当時)。雑誌記者、新聞記者を経て、調査研究室の主任研究員を歴任している。「再販と本の流通」と題してまとめた社内報告用リポートが、アルメディアの目に留まり、出版の運びとなった。アルメディアという出版社は、「菊地君の本屋―ヴィレッジヴァンガード物語」など、出版や書店などに関する本を多く刊行している。まさにこの本は出されるべくして出された一冊だった。
本の出た1996年当時、筆者の山田は東京の都心から電車で40分ほどの住宅地に住んでいた。20年前(というから1970年代半ば)に越して来たとき、駅に近い自宅周辺には7軒の本屋があった。10年前(1980年代半ば)、駅前に郊外型デパートができて、1階に大手書店の大型店舗が入店した。それからわずか1年、7軒の本屋のうち6軒が閉店してしまった。残った1軒も実用書と雑誌主体の品ぞろえに変わった。近くに24時間営業のコンビニエンスストアができたことも大きかった。
筆者はここから本の流通の変化について調べていくが、何よりも本屋の強敵、コンビニエンスストアの急成長についてページを割く。それが本屋の衰退に密接にかかわっているからだ。該当部分を要約しておこう。データやシステムなどはいずれも1996年時点のもの。
スーパーマーケットは終戦直後の1947~49年生まれの団塊の世代とともに成長してきた。それと全く同様にコンビニエンスストアは団塊ジュニア世代とともに成長してきた。コンビニエンスストアの登場は1969年、大阪・豊中市の「マミー」が最初。73年にファミリーマート、74年にセブン-イレブン、75年にローソンが第1号店を開設した。
団塊ジュニア世代は1971~74年生まれで、大学生か社会人のホヤホヤ。コンビニエンスストアの成長とぴったり重なる。団塊の世代の人々が同じ価値観のもとに激しい競争を強いられてきたのに対して、彼らの子供たちに当たる団塊ジュニア世代は、「価値観の多様化」と「競争回避」が特徴。合計810万人に上り、市場にとって最後のボリュームゾーンである。
コンビニエンスストアの目覚ましい成長の理由は、情報を駆使した売れ筋商品への徹底的な販売集中と、死に筋商品の排除にある。そこで威力を発揮するのがPOS(Point of Sales scanning、販売時点情報管理)システム。売れた商品の①商品名②数量③販売時間④客層がたちどころに本部に伝えられる。レジスターには通常の「現計」キーの代わりに「客層」キーがある。
例えばセブン-イレブンのレジには「12」「18」「29」「49」「50」の数字がついたブルーとピンクの2列のキーが並んでいる。それぞれ12歳以下(小学生)、18歳以下(中高校生)、29歳以下(若者)、49歳以下(壮年)、50歳代以上(熟年)、ブルーは男性、ピンクは女性。これはレジ係の見た目の判断による。こうして全国6300店、1日630万人の客が何時何分にどの商品をどれだけ買ったかという膨大な集積データが、年代性別とクロスされてたちどころに集計される。
――と、ここまで引用すればお分かりだろう。雑誌などの出版物をコンビニエンスストアで買う客も、同様にPOSシステムでデータ集積されているのである。
同書には「1992年度小売書店の売上高ランキング」というデータが載っている。出版物の売上額の1位は何とセブン-イレブンで1016億円。2位の紀伊國屋書店の896億円を大きく引き離す。確かに紀伊國屋書店の32店舗に比べてセブン-イレブンは約5300店舗(1992年当時)と、けた違いに多い。が、ベスト20社中、9社をコンビニエンスストア・チェーンが占めている。書籍は一切扱わず、雑誌とコミックス、新刊の文庫本に絞っているにもかかわらず、である。POSシステムを駆使して売れ筋だけを販売するコンビニエンスストアに、何もしていない書店はとてもかなわないことが突き付けられた形である。
POSシステムはさらに驚くべき読者像を伝えてくれる、と同書は指摘する。男性向けファッション誌「MEN’S NON-NO」購入者の4割が女性なこと。女性誌は朝、売れる傾向にあるが、「MORE」は夕方から夜にかけてよく売れる。なぜかと言えば、グラビア主体で重いため、持ち歩かないで済むように帰宅途中に自宅近くのコンビニエンスストアで購入する傾向にあるらしいこと。あるとき「週刊少年ジャンプ」の返本率が上がってきたので調べると、「29」のキーの売り上げだけが落ちている。ちょうどその時期にある連載漫画が終わっている。その漫画のファンが19歳から29歳の年代だったことが推定できた。
以上は1996年当時の話である。すでに四半世紀前に、ここまでの分析をしていた「消える本屋」には驚かされる。
時はめぐって2021年。消費の中心は、団塊の世代、団塊ジュニア世代から、その孫であり子供である若い世代に移ってきている。いわば団塊ジュニアジュニア世代である。この世代もコンビニエンスストアの日常的利用は多いが、四半世紀前にはなかったインターネットというシステムを当たり前のように使いこなし、商品購入に活用する点が特徴的である。本屋にとっては、アマゾンなど、さらなる強敵が出現している。2021年、新たな「消える本屋」が書かれねばならない。(こや)
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2021/02/02 05:38 |
コラム「たまたま本の話」

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